スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Transparent 02

Transparent 掲載二回目




   02



「にわかには信じ難い話だったけど、どうも本当のことみたいね」

 彼女は腕を組んでフムと唸る。

 僕は先ほど出会ったばかりの女の子、ユニアに、自分の身に起きた異変のことをできるだけ詳しく語ったところだった。
 
 最初は当然ながら変な顔をされた。周囲の誰からも認識されなくなったという現象など、いきなり信じろというほうが無理な話なのだから。

 でも、それをどうにかして信じてもらわないと話が進まない。

 だから僕は宙港ロビーのど真ん中で大声で叫んだり、人々の往来をわざと邪魔するかのような動きを見せたりもした。

 まるで道化のような振る舞いだが、そこまでのことをしてもユニア以外に僕を認識してくれる人はいなかった。彼女に気づいてもらえたことで、他の人にも気づいてもらえるようになったのではないかと期待したのだが、それは甘い考えだったと思い知る。

 ただまあこれでユニアには理解してもらえたようなので、ナンパ師の汚名は返上できた。

「どうして私にはキミが見えているんだろうね。私までキミと同類になった訳でもなさそうだし」

 ユニアが近くに座っていた赤ん坊連れの親子に手を振ると、向こうも律儀にそれに応えてくれた。その様子から見ても、彼女は普通に周囲から認識されているようだった。

「それは僕が知りたいところだよ。君は何か特別な力の持ち主だとか」

「さすがにそんな自覚はないわね。コミックとかの登場人物でもないんだし」

「些細な手がかりでもいいんだ。どうして僕を認識できたのか、何か気づいたことない?」

「気づくも何も、キミってば十分に目立ってたもの。会計も済まさずコンビニから堂々と商品を持ち逃げしていくんだから」

「えっ……」

「店のスタッフでもなさそうなのに、毎回あんな堂々と万引き。周りの人も止めようとはしないし、不思議には思ってたのよね」

 それは気まずい場面を目撃されたものだ。

 けれど堂々と万引きとは人聞きの悪い。これでも遠慮はしていた方なんだけどな。最初はちゃんとお金だって払おうとはしていたんだし。

 だが、僕はそこで、とあることが気になった。

「ちょっと待って。君はいつからそれを見ていたんだい?」

「昨日のお昼からだよ。そこからキミのことが気になって、時間があるときは遠くから観察していたの」

 そうか。僕は昨日からこの子に視てもらえていたのか。

 この事実を知ったからといって事態が好転する訳でもないだろうが、誰かに気づいてもらえていたというのが単純に嬉しかった。

「でも、さっきはすごく辛そうな顔で涙を流していて、さすがに放っておけなかったよ」

「そうか。だから声をかけてくれたんだね。ありがとう」

「気にしないで。それに色々と納得もいったから」 

 ユニアはそう言いながらも「あっ」と小さな声をあげた。

「どうしたの。何か思い出した?」

「そうじゃないの。リグ、キミは周囲から認識されていなのよね? だったら今こうやってキミに話しかけてる私は、一人で空気に語りかけている変な女の子にみえてたりして」

「……それはどうなんだろう」

 彼女の疑問はもっともだった。僕たちは思わず周囲の様子を確認してしまう。

 今のところユニアに奇異の目を向けている人間は見当たらなかった。あるいはアブない子に思われて、視線を合わせないよう避けられているだけか。

「今ひとつハッキリしないわね。よし、こうなったら」

 ユニアはそう言って立ち上がると僕の正面に立ち、いきなり声を張り上げた。

「リグっ。そんなに私のことが好きなら、百回『愛してる』って叫びなさいッ!」

「え……えええええぇぇぇっーーーー!?」

 明らかにロビー全体に響き渡るほどの声。

 こんな目立つようなことを言えば確実に誰かが目を向けてきて注目を浴びるのは間違いない。周囲から認識されない僕ならまだしも、彼女はそうではないのだから。

 それ以前に好きとか愛してるとか、僕はこの子にそんな感情を持ったことなどない。

 いきなり何を言い出すんだ彼女は。

 戸惑う僕をよそに、ユニアは周囲の状況を観察して冷静につぶやいた。

「やっぱり」

「何が『やっぱり』なんだよ。君は何がしたいんだ」

「リグ。落ち着いて周りを見て。私、あんな目立つことを叫んだのに誰もこっちを見ていないわ」

「言われてみれば……」
 
 僕が誰にも認識されていないのと同じかのように、こちらに意識を向けてくる相手は誰一人といなかった。

「もう少しだけ待っててね」

 ユニアはそう言って僕のもとを離れると、近くに居た宙港のインフォメーションスタッフに何やら話しかけて、またすぐに戻ってくる。

「裏づけがとれたわ。やはりさっきの私の行為、誰も気づいてなんかいない」

「どういうことだい。君は僕みたいに認識されてない訳でもないだろうに」

「理屈はわからないけど、私がキミに意識を向けて接している間は、周りの意識から私という存在も消えているみたいね」

「つまり僕とこうやってやりとりしていることを、誰も気にとめてないってこと?」

「おそらくそういうことだと思うわ」

「つまりさっきの発言はそのことをたしかめる実験だったってことか」

 彼女の突飛な行動の意味を理解した僕は、肩を落として深いため息をつく。

「何よリグ、そのため息は。私の思い切った行動のおかげでこの事実がわかったのよ。今後も気になることを試していけば、キミの身に起きた異変の謎にだって迫れるかもなんだよ?」

「それにしたってあの内容はどうかと……」

「インパクト重視よ。それとも何か変な期待でもさせちゃった?」

 クスっと微笑みながら身を寄せてくる彼女。

「べ、別にそんなこと」

 不機嫌な声でそっぽを向く。少しからかわれていると感じたから。

 にもかかわらず心臓の鼓動は高鳴ってしまう。

 でもそれは仕方のないことだ。相手はものすごい美人なのだから。

「ごめんごめん。ちょっと悪ふざけがすぎたのは認めるわ」

「いいですよもう。どうせ僕なんて」

「もう。男の子でしょ。もっとしゃっきりする。キミ、暗いよ」

「そうは言っても僕のこの現状を考えると、明るくなれってのも」

「たしかにリグの身に起きた事は辛い出来事だと理解してるよ。でもキミは私と出会えた。これは大きな前進だと思わない?」

「そりゃまあ」

「ならウジウジしないで顔をあげて前を向く。キミには私がついてるんだから」

 堂々と宣言する彼女。強引なところはあるけど、言ってることは正論だ。それに勢いだけの言葉だとしても、嬉しいものは感じる。

「そんなことよりもリグ」

 ユニアが声を低くした。

「なに?」

「キミ、異変が起きてから七日。ちゃんと身体を洗ったり、着替えはしているの?」 

「……えと。お風呂とかは入ってないけど、下着くらいは替えてる、かな」

 我ながら恥ずかしい答えだ。

「ちゃんと洗濯した綺麗なもの使ってる?」

「洗濯はさすがに。でも、新しい下着は食料と一緒にお店で拝借っていうか」

 ここは環境が一定に保たれた衛星軌道のステーションだから、惑星の地表とくらべれば大して汚れることもない。だからといって身体の清潔を保たなくてもいいという理由にはならないが、そこまで気を配る余裕がなかったともいえる。

「……僕、そんな変な臭いするかな」

「臭いというか気分の問題ね。男の子だからそういうところには無頓着かもだけど、これからは私もいるんだから、最低限は身を綺麗にしておいて欲しいわ」

「でも、そんな身体を洗う場所なんてどこに」

「誰からも認識されてないなら、適当にどこだって忍びこめばいいじゃない。女子更衣室とかにも侵入し放題だよ。やったね、少年」

「冗談でもそういうのやめて欲しい」

 この子は僕を何だと思っているんだ。何が『リグの身に起きた事は辛い出来事だと理解してる』だよ。面白がられてるだけじゃないか。

「うーん。男の子が喜びそうなこと言ってあげたつもりなんだけどなあ」

「そういうのって時と場合にもよるよ」

 第一、そんな会話を女の子から振られて手放しに喜べるほど僕は単純な男子じゃない。

「リグが寝泊りしている場所にはシャワーとかない訳?」

「僕はこの数日、ずっとこの付近のベンチで寝ているからね」

「そっか。なら仕方ない。シャワーは私が泊まっているホテルの部屋のを貸してあげるよ」

「それはありがたい申し出だけど、いいのかい?」

「私がそうして欲しい訳だから遠慮しなくていいの。あとその制服も洗濯するなり、どこかのショップで新しい服とか失敬してきたらどうかな」

 ステーション内にはホテルや宙港以外に繁華街区画も存在し、そういった場所にいけば有名ブランドのショップやデパートなんかもあったりもする。

「でも服まで勝手に持ち出すのは気が引けるな。値段も高そうだし」

 食料や下着は止む無い事情で失敬しているが、それ以上のものをとなると躊躇してしまう。ここで盗むことに歯止めが効かなくなってしまうと、人として取り返しがつかなくなってしまう気がするからだ。
 
 僕がそのことを言うと、ユニアは小さく苦笑した。

「いまさらね。でも悪い考えじゃないわ。キミの誠実さが良くわかるもの」

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」

「けれど誠実なのと身を綺麗にしてないのは別よ。制服は私がクリーニングに出してあげるから、キミはシャワーを浴びにきなさい」

 ユニアはそう言って僕を促すとホテルに向かって歩き始めた。

 決してやましい気持ちなどないつもりだが、知り合ったばかりの女の子とホテルへ行くという状況は、かなりぶっ飛んだ状況なのではないだろうか。

 意識すればするほど緊張でおかしくなりそうなので、心の中ではひらすら「平常心」と唱えておく。

 それにしたって彼女は変わり者だと思う。こんな異常事態に陥った僕に対して、臆することなく接してくれるのだから。

 普通ならもっと気味悪がられても仕方がない気もするんだけどな。

 彼女は一体、どんな人間なのだろう。

 僕はユニアのことをまだよくわかっていない。

 その事実に今さらながら気がついた。



 ~つづく~

コメント

No title

楽しく拝読させていただいております。思いがけずティノア様の物語に触れることができて嬉しいです。

リリウスさん。ありがとうございます。とりあえず洗濯にまつわる描写も登場?の第二回でした。次はホテルで何が起きるやら⁈

No title

お姉さまの新作、02まで読みました。!
はじまりから引き込まれますね。
重く物悲しい雰囲気を秘めながらも、どこか優しい物語。
王道のボーイ・ミーツ・ガール的な感じもあってわかりやすいです。
続き楽しみです。

No title

ふうちゃん。いらっしゃい。
序盤でわからないことだらけかもだけど、まずは雰囲気に引き込まれていただけたなら嬉しいです。
つづきもマイペースで頑張ります。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。