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Transparent 04

Transparent 掲載四回目


Chapter Ⅱ


   01




 それは最初、意味の無い音のようなものに思えた。

 不規則なリズム。大きかったり、小さかったり。どこともしれない真っ暗闇の中にあって、音だけが響いている。

 だがそれは耳障りな嫌なものではなかった。しっとりとした静かな音。

 かといって心が安らぐものでもない。その音から感じるイメージは寂しさだから。

 真っ暗な闇の中に響く寂しい音なんて、不安をかきたてるには十分なものかもしれないが、不思議なことにそういう心細さはなかった。

 右手に誰かの温もりを感じたからだ。姿こそ見えないが誰かが手を握ってくれている。

 僕は一人じゃない。そう思うだけで不安は激減するというものだ。

 そんな時。音に変化が訪れた。

 意味の無い音だったものが、意味のあるもの、僕にも理解できる言葉となって響いたのだ。



 ゴメんナさイ。ゴメンナサイ。ごめんなさい。



 それは過ちを詫びたりする言葉。聞き覚えの無い少女のような声で闇の中に響き渡る。

 何に対しての「ごめんなさい」なのかがまるでわからない。僕は問い返したかったが、少女の声は何者をも寄せ付けないかのように、ごめんなさいと一方的に繰り返す。

 どうしたものかと途方に暮れていると、少女の声はやがて薄れるように消えていった。そして、今度は徐々に暗闇の中に光が差し込んでくる。

 ……いや違う。僕が目を覚ましたから光が見えたという方が正しい。

 覚醒していく意識の中で、僕は眠りから目覚めたのだと理解する。つまり先ほどの暗闇と謎の少女の声は夢ということになるのだろうか。

 ぼんやりとそんなことを思う一方、ここはどこだ?とも思ってしまう。

 寝ていたのはわかるが、ここは自分の家のベッドじゃない。ものすごくクッションの効いた広いベッドの上だ。それに部屋の天井にも見覚えがない。クラシカルで気品に溢れた部屋。

 僕は少しずつだが状況を思い出してきた。ということは……

 首を横に向けると、案の定、ものすごいまでの美人の女の子が眠っていた。それもかなり近い位置で。

 そして僕は、彼女と手を繋いだままでいることに気づく。

 気恥ずかしさが込み上げてくると同時に、一気に目が覚める。

 そういえば昨夜、一緒に手を繋いで寝るとか言われていたことを思い出す。まさか本当にそんな風に眠っていたとは驚きではあるが。

 だからといって別段やましいことなどはしていない。それは誓っていえる。

 何せ久しぶりのベッドでの睡眠。おまけに寝心地も抜群の最高級のベッドだ。女の子と一緒に眠るという緊張をも無かったことにするくらい、僕はすぐ眠ってしまった。

 なので手を繋いできたのはきっと彼女からだろう。

 明るく元気に見えた、僕より少しだけ年上の女の子。でも彼女も、心に何かしらの寂しさを抱えている。

 それにしても。

 僕はこのまま彼女と手を繋いだままでいていいのだろうか?

 乱暴に引き離すのは、まだ眠っているユニアに悪いような気がする。かといってこのままというのも恥ずかしいというか何というか。

 理性には自信があるつもりだが、それでも妙に意識してしまうほどに彼女は魅力的だ。
 
いや、だからどうだという。それを言い訳に、吸い寄せられるようにキスでもしたいとか思っているのか?

 なんだか自分でも訳がわからなくなってきた。男子としてはまともな葛藤なのかもしれないが、僕はそこで軽薄な人間にはなりたくない。

 時間をたしかめると朝の六時半だった。少し早い気もするが、起きるには悪くない時間だ。

 そう思った時、僕と彼女の間の枕元に一冊の本があることに気がつく。

 ユニアが製本業者に作ってもらったという紙の本だ。

 僕はゆっくりと身を動かし、それを手にとってみる。

 表紙は本物の革なのかは分からないが、それに近い手触りの装丁で、中々にお金がかかっていることは想像に難くない。

 ざっとページをめくってみるが、書いてある文字は僕には読めない。 これは大昔の言語、旧文明語で書かれているからだ。旧文明語が発展進化したものが連邦公用語で、そこから派生する形で銀河標準語が生まれたとされている。

 なので文字の形としては銀河標準語に近い部分もあるのだが、そこを解析するだけの気力は僕には無かった。

 ユニアはこれらの内容を理解し、おまけに綺麗な発音で喋れていたことを考えると、かなり勉強しているんだろうな。カレッジではそういう分野を専攻しているのかもしれない。

「私の大切な本、勝手に覗き見してる」

 突然、耳元でユニアの声がした。どうやら目を覚ましたようだ。

「あ。ごめん。つい気になって」

 反射的に謝って本を元の場所に戻す。

 ユニアはそんな僕を咎めるでもなく、優しそうに微笑んでくれた。

「別にいいんだよ。リグが読みたければ自由に手にとってくれて」

「ありがとう。でも僕には何が書いてあるのかわからなかったからさ」

「そっか。……それよりも、まだ手を繋いだままでいてくれたんだね」

 繋いだ手の指先。少しだけ彼女の力がこもるのがわかる。

「それは、勝手に振りほどくのもどうかと思っただけで……」

「いいんだよ。言い訳はしなくても。男の子だもんね。少しでも女の子と触れ合っていたかったんだよね。大丈夫。お姉さんもこれくらいなら許すから」

 またからかうような事を言い出す。ある意味、朝から絶好調なようで何よりだ。変に沈んだ表情を見せられるよりは、こっちのほうがいい。

 でも、ここで彼女の思い通りの反応をするのも癪なので、僕は冷静にかえす。

「はいそれはどうも。それよりも起きたなら、顔洗って今日これからのことを考えよう」

「むぅ。何よ、その面白みのない返事。可愛げないぞ、キミ」

「からかわれているのはわかっているんだし、わざわざ付き合ってられないよ」

 それにいちいち反応してたら、僕だってどこで理性が飛んでしまうかわからない。

「わかってないなあ。そこでちゃんと付き合うのが円滑な人間関係に繋がるんだよ。それが目上の者に対する礼儀ってものでしょ」

 言ってることが無茶苦茶だった。

「人をからかっておいて目上も何もないだろうに。もしかしてまだ半分寝ぼけてる?」

「ふふ。そうかもだね」

 ユニアは表情を緩ませると、そのまま視線をそらして目を閉じる。

「ねえ、もうちょっとだけ横になっていてもいい? できればキミも一緒にこのまま手を繋いで」

「……まあ少しくらいなら」

「ありがとう」

 このまま二度寝でもするのかと思ったが、彼女は目を閉じたまま言葉を続けた。

「なんか変な夢を見たんだよ。聞き覚えのない声に何度も謝られてるの」

「え……」

 なんだか僕が見た夢と似ているような。

「リグ。ひとつ聞いていい?」

「なんだろ」

「何度も謝ってたのって、もしかしてリグだったりしない? 眠っている私によからぬことをしようとして、その罪悪感で謝っていたとか」

「してないよっ!」

 まったくこの子は。まだ僕をからかうか。

 でも、そのことよりも、今は訊ねないといけないことがある。

「それよりもユニアが聞いた声って、少女のものだったりしないかな」

「ん~。言われてみればそんな感じもしたかな。最初は何を言ってるか全然わからなかったんだけど、段々と鮮明に『ごめんなさい』って聞こえてきた」

 やはり僕が見た夢と状況が近い。

 これは単なる偶然で片付けるのもどうかと思える。

 そこで僕も、自分の見た夢の詳細を彼女に伝えてみる。するとユニアは閉じていた目を開いて、再び顔を向けてきた。

「なによそれ。私とまるで一緒だよ。闇の中で一方的に謝られるのもおんなじ」

「じゃあ僕とユニアは本当に同じ夢を見たっていうことか……」

「やはりこれってキミの異変と関係あるのかしら」

 ユニア以外の人々から認識されなくなった僕自身の異変。たしかにその現象自体、あまりにも不可思議な出来事ではある。

 けれど、夢の中で知らない少女に謝られるようなことは今まで無かった。そのあたりに繋がりそうな物事もまるで心当たりが無い。

「駄目だな。いくら考えても関係性がありそうなことが思いつかないよ。ユニアはどうだい? もしかするとこれは僕の夢というより、君のみた夢だっていう可能性とか」

「残念ながら私も思いつくことはないわね」

「そうか。でもこれっていわゆる精神感応っていうものなのかな」

「現象としてはそういう類のものだよね」

「僕はそういう超能力は持ってないと思うんだけど……やはりユニアもそういう能力に自覚とかはない?」

「以前にも言ったと思うけど、そんな覚えはまるでないわ。もっとも、今まで無自覚だっただけで、本当はそんな能力があったという可能性もなくはないけど」

 たしかに可能性の話をすれば、誰だって能力者である可能性はゼロとはいえない。

 この宇宙には様々な能力を秘めた異星種族がいるし、僕たちのような人類種族にも能力に覚醒している者は実際にいる。

 だがそういった者はやはり稀であり、その可能性をアテにして物事を考えていくのはまだ早いように思えた。

「こういう不可思議な現象に詳しい相手でもいればいいんだけど」

「そうだね。僕たちの知識だけではわからないことが多すぎだしなあ。でもこういうのに詳しい人たちってなると、イメージとしてはラゾリア王国の人とか?」

 ラゾリア王国は帝国とも連邦とも違う文化をもった歴史深い王国だ。遺伝子工学の分野における発展が目覚しく、様々な天才が遺伝子を調整されて生み出されているともいう。

 だが、そんなラゾリア人の最大の特徴ともいえるものが【魔法】と呼ばれる神秘の技だ。

 僕も詳しく理解している訳ではないが、ラゾリア人をはじめ、特別な素質を持つ一部の人間は、普通の一般人には感知できない不可視のエネルギーを認識できるという。そのエネルギーを体系的に引き出す技術が【魔法】であり、それによって様々な不可思議な現象を起こすことができる。

「ラゾリアの人かあ。たしかに一理あるけど、私はあの国の人って苦手なのよね」

「誰か知り合いでもいたのかい?」

「そういう訳ではないのだけど、ラゾリアの人って高慢なイメージの人が多いっていうか」

「ああ。言われてもみればたしかに」

 こんなふうに思うのは失礼かもしれないが、ラゾリア人はどこか高慢な……いや、尊大な態度の人が多いのはたしかだ。

 優れた人種であるとの誇りが強いのだろうか、独自の理念や価値観をもっている。

「でも、あの国の女王様はそこまで嫌なイメージはないから、やはり人それぞれなのかも」

 僕がそんなことを口にすると、ユニアの目がすっと細まった。

「女王リュミネ・アーヴルだっけ。たしかにものすごい美少女だものね」

「そうなんだよ。首都星アーゼフォルトの王宮で演説する彼女の画像とか持ってるけど、場所の景色とも相まって、一枚の絵画かと思えるくらい綺麗なんだよなあ」

「ふうん。そういうことか。リグはロリコンなのね。どおりで」

 僕の足をげしげしと蹴り、とんでもない言いがかりをつけるユニア。その表情はからかっているというより、不機嫌そうだ。

「な、なんだよ。僕、何か気に障るようなこと言った? それにロリコンだなんて……」

「なんとなくムカついただけよ。目の前にこんな美人のお姉さんがいるのに、キミは大してドキドキもしてくれない。なのに女王のことを語るキミの表情ときたら、ものすごく活き活きとしていて。なんか普通に悔しい」

 むくれてそっぽを向くユニア。

 これってやきもちを妬かれているってことなのだろうか? かといって変な勘違いをして距離感を誤ると、余計にややこしいことにもなりかねない。

 こういう時こそ冷静に。そして正直にだ。

「ユニアのプライドが傷ついたっていうなら、そこは謝るよ。それに君にドキドキしてない訳じゃないよ。君がすごい美人なのは認めるし、女性との付き合いのない僕からすれば勿体ないほどの体験っていうか。でも、そういうのって意識すると恥ずかしいっていうかさ。助けてくれる君に対して、変な下心は見せたくないんだ」

 また無言で足を蹴られる。僕は至って真面目にいったつもりなのに。

「とにかく機嫌直してくれないかな?」

「う~~。別に怒ってはいないけど、別の意味でも悔しくなった。キミ、真面目に大胆なこと言ってるもの。ちょっとズルい」

 大胆とかそんな自覚はないんだけどな。彼女には僕の言葉、どう通じているのだか。

「でもユニア。これだけは言っておきたいけど、僕はロリコンじゃないから」

「それってそんな改めて否定するものなの?」

「君にロリコン認定されたら、ずっとそれでからかわれそうだからさ。先に釘をさしといた」

 それにリュミネ女王は容姿でこそ幼い美少女だが、実年齢は見た目よりも上だと聞いた事がある。

「むうう。一本とられたわね。わかった。今朝の勝負は私の負けでいいわ」

 そう言って笑顔を向けてくれるユニア。

 一体何の勝負なんだよと突っ込みたい気持ちはあったが、とりあえずは機嫌を直してくれたようなのでよしとしよう。

「それよりも今日は繁華街区画にでも行ってみようか。リグってば、ずっと宙港付近で引きこもっていただけなんでしょ」

「手がかりになりそうなことでも思いついたのかい?」

「そういう訳ではないけど、じっと動かないままでいるよりはいいと思うの。新しい発見だってあるかもしれないし、何よりも気分転換になると思うわ」

「……たしかに一理はあるか。うん、僕もそれで構わない、かな」

 少し思うところがあって歯切れの悪い言い方になってしまう。

「ん? あんまり乗り気そうに見えないのは気のせい」

「いや、そんなことはないよ」

 そう答えてしまうが、内心ではユニアの鋭さに舌を巻く思いだった。

 彼女の提案に異論はないのだが、僕は繁華街に出ることを少々不安に感じていた。

 人の沢山いる場所で、自分という存在が認識されない事実をより突きつけられるのが怖いのだ。僕が一人だった頃、宙港ロビーから動けなかった理由がそれだった。

 今さらといえば今さらだとは思う。

 でも、このままではいけないのも事実。僕は覚悟を決めた。

「気分転換ってことは、これってデートだと考えてもいいのかな?」

 自分でも柄にもない事を言ってると思うが、これくらいの軽口でも叩かないと不安で心が沈みそうだった。

 ユニアの方は少し意外そうな顔で僕を見ていたが、やがてには可笑しそうに笑い出す。

「キミも中々言うようになってきたね。わかった。じゃあ今日はデートで決まりね」

 僕の不安を感じ取ってくれているのかまでは分からないが、彼女は嫌な顔をするでもなく頷いてくれた。


コメント

待ってました。
重要な伏線らしき夢の場面を絡めつつも、にやけちゃうやりとりが面白かったです。
ユニアちゃんはお姉さんぶってるけど、無邪気な子供みたいな部分もあって可愛いですねー。ただ、彼女の連邦に対する心情を知っている今だからこそ思うのは、ところどころに心の不安が見え隠れしているように思えます。
そしてリグもユニアちゃんと出会えたとはいえ、やはりまだ自分の置かれた状況の不安が消えてはいない。
二人のこの先も楽しみにしてます。
あとリュミネ女王。これまたわたしには懐かしい人ですね。
この作中の彼女はもう牛丼の美味しさに目覚めてるのでしょうか。?w

No title

にやけていただけたなら嬉しいですw
狙って書いてた訳ではないけど、なんかあの二人は本題そっちのけで自然とあんなやりとりばかり出てきちゃって、良いんだか悪いんだか。
次もご期待ください。
あとリュミネ女王と牛丼について(苦笑)
詳しく時代を決めていたわけではないけど、リヴルーク庭園事件後とだけは想像してます。なので牛丼を気に入っている可能性はありますね。
粗野なれど美味、とか言いながらこっそり食べてたりしそうな女王様です。

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