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魔法使いの紅茶館 特別編

なんか三時間で勢いで書いちゃった。クリスマスプレゼント代わりってことで。
突貫仕上げなので申し訳ないですけど(汗)




“魔法紅茶館”。

 そのお店は、とある閑静な住宅街の一角にある小さなお店。

 名前が示すとおり紅茶を専門に扱っています。

 店をきりもりするのは、結城 千瀬という、まだ若い一人の女性。

 別名“紅茶魔法使い”とも呼び慕われています。

 もっとも。本当に不思議な魔法が使える訳ではありません。

 “紅茶魔法使い”の名も、今は亡き先代の店主であった祖母から受け継いだというのがあります。

 先代店主である千瀬の祖母は、
「紅茶のブレンドは魔法の薬品を調合するかのように奥深い」
 と常々語っていました。

 そのことが由来して“紅茶魔法使い”と呼び慕われていたのです。

 亡き祖母と比べれば千瀬はまだ未熟かもしれません。

 それでも彼女は、毎日笑顔で頑張ります。
 



  1

 クリスマスイブを明日に控えた日。

 千瀬の元へ小さなお客さまが訪れました。

 その子は店の近所に住む家の六歳の女の子で明美ちゃん。母親と一緒に何度かこの店に来たことがあります。

 今日は明美ちゃん一人だけ。千瀬に対して何やらお願いがあるといいます。

 そのお願いというのは。

「わたしのためたおこづかいあげるので、おいしいケーキつくってください」

 そう言った明美ちゃんの手には百円玉が二枚のっています。

 想像もしなかったその願いに、千瀬は思わず苦笑します。

 美味しい紅茶を淹れて欲しいと言われるならまだしも、ケーキを作って欲しいと言われるとは思いもしなかっただけに。

 たしかにこのお店では紅茶と一緒にケーキなどのお菓子も提供しているだけに、幼い明美ちゃんからみると、ここをケーキ屋と思っているのかもしれません。

「だめですか? にひゃくえんなら、おかしもいっぱい、いっぱい、かえるよ」

 二百円。幼い彼女からすれば大金なのでしょう。駄菓子とかならいっぱい買えそうです。

「明美ちゃんは、そのお金でケーキが食べたいの?」

 今度は千瀬がそう問う。すると明美ちゃんは、首を大きく横に振った。

「たべるんじゃないの。つくってほしいの。パパとママにプレゼントするの。おっきなケーキを!」

「お誕生日か何かの記念かしら?」

「おたんじょーびとかじゃなくて、クリスマスなの。わたしね、サンタさんになって、パパとママにプレゼントあげるの」

「そうなんだ。それは偉いですね」

 千瀬は優しく微笑みました。

 こんな小さな子が両親にプレゼントだなんて、ちょっと温かい気持ちになれたりします。

 とはいえ、同時に少し困りもしました。二百円で大きなケーキを作るとなると、さすがに値段と釣り合いそうにありません。

「ちせさん。おねがいします。おいしいケーキをつくってください。あとパパにもママにもこのことはないしょにしてほしいの。びっくりさせてあげたいから」

 明美ちゃんはそう言って、二百円を千瀬の手におしつけてくる。

「……それはまあ、何とかしてあげたいところではあるのですが」

 こんなに熱心にお願いされてしまうと、断ろうにも気が引けてしまう。だからといって二百円でケーキを作ったなんていう噂が後々に流れても困ります。

 そんなとき。お店の入り口が勢い良く開かれ、千瀬も見知った女性が入ってきました。

「明美! 探したじゃない。こんな所で何をやっているの!!」

 女性は、店に入ってくるなりそう叫びました。

「あ、ママ」

 やって来たのは明美ちゃんの母親。その表情はどうも怒っているように見えます。

「心配したじゃないの。急にいなくなるんだから」

「……ご、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないでしょ! ママがどれほど心配したかわかっているの?」

 明美ちゃんは今にも泣き出しそうな顔。千瀬はやんわりと割って入りました。

「あの、彼女も反省することでしょうし、これ以上は怒らないであげて下さい」

「……ごめんなさいね、千瀬さん。この子、お店の営業の邪魔をしてたりしない?」

「い、いえ。そんなことは」

「じゃあ、この子はここに何しにきたの?」

「それは……」

 事の顛末を話すべきかどうか千瀬は迷いました。明美ちゃんは内緒でケーキを作ってほしい様子だったし、ここで全てを打ち明けることは彼女のささやかな計画を台無しにしかねません。

「ママにはまだいっちゃダメなの!」

「どういうことなの? 明美、説明しなさい。何故、この店にいたの?」

「……うぅ……それは、まだヒミツだもん」

「ママに言えないなんて、悪いことをしてるんじゃないでしょうね?」

「そんなことしてないもん!」

「だったら、何をしていたか言いなさい」

「だめ……いまはヒミツ…だから」

「明美、いい加減にしなさいっ」

 苛立った母親が手をあげた時、明美ちゃんは逃げるように走り出しました。

「ママなんて、だいっきらい。わたしをしんじてくれないと、サンタさんこないんだからねっ!」

 朱美ちゃんはそのまま店の外へ飛び行く。

「待ちなさいっ!」

 彼女の母親も、慌ててその後を追って行きます。

 千瀬は、ただその様子を見ているしかできませんでした。心配ではあるものの、どう踏み込んで良いのか判らないというのもあります。

 ただ困ったことに。千瀬の手には明美ちゃんに押し付けられた二百円が残っています。

(これどうしましょう)

 小さな少女が貯めた大事なお小遣い。さすがに貰っておく訳にもいきません。

 返すのは正しいことではあるけれど、それだと彼女の家にまで赴いて事情も説明しなければならないでしょう。

 千瀬は少し途方にくれながらも、どうするのが良いのかを真剣に考えてみることにしました。
 
 


  2
 

 夜になりましたが、あれから明美ちゃんたち親子がこの店に戻ってくることはありませんでした。

 近所でも特に騒ぎが起きていない様子だし、今はちゃんと家に帰っているのかもしれません。

 お店の営業時間も終えた千瀬は、ひとつ思いついた考えを実行するべくキッチンに立っていました。

 明美ちゃんに押し付けられた二百円。返すことも当然考えましたが、ここは彼女の当初の願いどおり、これでケーキ作りを引き受けようと心に決めたからです。

 明日はクリスマスイブ。その日には特別なお菓子も店で出そうと思っています。

 ならばその試作品を明美ちゃんにあげるのはどうだろう。千瀬はそう考えました。

 作る物の候補も彼女の中では既にあります。

 ケーキというより洋菓子の部類に入りますが、パリ・ブレストというものを作ってみようと千瀬は考えていました。

 パリ・ブレストはシュー皮を丸いリング状に焼いた洋菓子のことです。

 それをクリスマスリースに見立ててアレンジしてみるのも楽しいかなと思ったのです。

 普段は紅茶が専門の千瀬ではありますが、製菓学校で勉強を積んできた過去があるので、実はこういったお菓子作りも得意だったりします。

 キッチンのテーブルにはバターや牛乳、卵、薄力粉にアーモンドダイスなどなど。一通りのものは揃っています。

 とりあえず試作品は二つ作ることにしました。明美ちゃんに渡す分と、自分で味見するものとを。

 千瀬はオーブンシートを広げ、その裏側に直径20cmほどの円を描き、天板をのせました。そして今度は鍋を取り出すと、その中
に水とバターを入れて中火にかけます。

 作り方は頭の中に入っているので、まずまずは順調。

 塩と砂糖もかるく加え、鍋の中のバターを木ベラで崩してゆく。するとバターが徐々に溶けてもいって、かぐわしい匂いがふんわりと広がります。バターが溶けて鍋が煮立ってきたら、今度は火を止めて薄力粉をどさっと加える。

「よいしょっと!」

 薄力粉を入れたら、木ベラで素早くまとめ、なおかつ練り混ぜます。それこそ、えいえいっと一生懸命に。鍋から離れるくらいに生地を練り上げないと、焼いたときにうまく膨らまないという欠点があります。

 そして次は卵の出番。

 千瀬は慣れた手つきで卵を割ります。そして卵をよ~く解きほぐし、先程の生地に少しずつ加え、手早く混ぜる。すると卵は段々と生地に馴染んで、もっちりとしてきます。

 このとき注意しなければいけないのは、加える卵が多すぎると、焼き上がりにふっくらしないということ。

 木ベラで持ち上げ、ゆっくりと落ちるぐらいの堅さならばOK。

 ここまで来ると、次に必要になるのは最初に円を描いたオーブンシート。練り上げた生地を丸口金の絞り袋に入れたら、オーブンシートの円に沿って、ゆっくりと生地を絞り出してゆく。このときは一度絞った生地に重ねて、もう一度生地を絞ります。

 その後は、軽く表面に霧を吹きかけ、二百度に温めたオーブンの中へ。15分ほど焼いたら、オーブンの温度を百五十度に下げて、更に15分~20分ぐらいの間で焼くのがポイント。

 こうして色がつき、ふっくらとしたら、リング状のシュー皮は完成予定。

 シュー皮が完全に焼きあがるまでは、カスタードクリームを作ります。

 カスタードクリームを作るには、まずボールの中にグラニュー糖と薄力粉、あとそれに温めた牛乳を加えます。そして、その三つを混ぜ合わせたものを、裏ごししながら鍋にいれかえる。

 鍋は中火にかけ、泡立て器で混ぜながら、とろみがつくまで煮てゆき、ほどよくとろみが出たら、一度火を止め卵黄をいれ、再び混ぜながら30秒ほど火にかけます。

 最後は火を下ろして、バターやリキュールを混ぜ加えれば、カスタードクリームはあっという間に完成。

「シュー皮はうまく焼きあがっているかしら?」

 オーブンの中をのぞくと、シュー皮もふっくらと良い色合いで完成していました。ここまでくれば、あとは最後の仕上げにとりかかるだけ。

 千瀬はオーブンから取り出したシュー皮をお皿の上に乗せかえ、横半分からスライスして、上下に割る。そしてシュー皮の下側に、先程のカスタードクリームをたっぷりと詰めていきます。

 他にも、イチゴやみかんなどの旬のフルーツも彩りよく添えると綺麗に整えていく。

 あとは生クリームにグラニュー糖を加えて、ボールの中でしっかり泡立てる。そして、泡立てた生クリームも絞り袋に入れて、カスタードクリームやフルーツの上に少しはみ出す程度にのせてゆく。

 最後はシュー皮の上の部分をかぶせ、ミントの葉やベリー、小さく切り分けたキウイなどをトッピングして、粉砂糖を全体にまぶす。こうして、クリスマスリース風にアレンジしたパリ・ブレストは完成。

「うん。何とか出来上がりました」

 完成したパリブレストを見て、千瀬は満足げに頷きました。

 一仕事終えた後は、紅茶でも飲んで一息つきたくなります。

 千瀬は材料で余ったメロンを使ってミルクティーを作ることにしました。

 ベースとなる茶葉と汲み立ての水と少量の牛乳、つぶしたメロンなんかを手鍋で煮て抽出すれば、あっという間にそれも完成します。

 千瀬は、パリ・ブレストを試食するのと一緒に紅茶を味わいました。

「うん。美味しい」

 パリ・ブレストを一口食べてみて自分でも納得。

 ふっくらサックリのシュー皮に、フルーツの酸味も混じったカスタードクリームは中々のハーモニー。

 これなら見た目も味も、きっと喜んでもらえそうです。

 明美ちゃんや、クリスマスに訪れるお客さまのことを思うと、少し楽しみな気持ちになります。

 美味しいものは食べた人はきっと笑顔になる。

 食べてくれる人が笑顔になってくれれば、作る方だって嬉しい。

 誰かの為に頑張ること。それは決して義務ではない。

 頑張った分だけ人が喜んでくれれば、自分も幸せになれる。少なくとも、千瀬はそう思う訳ですから。
 
 


  3

 
 一夜が明けた翌日。

 千瀬は明美ちゃんの家にパリ・ブレストを届けることにしました。

 そして家の前でインターホンのチャイムを押そうとした矢先。

「あら。千瀬さん」

 玄関先から急に声をかけられる。そこに立っていたのは明美ちゃんのお母さん。

 でも、声の調子からいって、あまり歓迎されている感じではありませんでした。

「こんにちは」

 それでも千瀬は臆さずに挨拶をします。

「一体ここに何をしにいらしたの? 昨晩から明美ってば何も話してくれないのよ」

「そうでしたか」

「あなた、一体あの子と何をしていたの? 事と次第によっては……」

「別に悪い事をしていた訳ではないのです。それと今日は明美ちゃんにお渡しするものがありまして」

「娘に渡すもの? それは何なのかしら」

「それはまだ言えません。ですがすぐに明らかになることですし、明美ちゃんから聞いてもらえますか」

 ここまできても、千瀬は自分から明らかにすることはいけないことだと思いました。

 このパリ・ブレストは幼い少女が両親のことを思ってのプレゼントなのです。

 明美ちゃんがこのことを秘密にするのは、それこそ両親に驚いてもらいたい一心。

「どうしてなの。あなたが説明してくれたら、あの子とも口論にならないでしょうに」

「それについては申し訳なく思いますが、今は朱美ちゃんを信用して貰えませんか?」

「しかし、親に隠し事をしてまで信用しろと言われても」

「では失礼ですが、お母さまは幼い頃にサンタクロースを信じたことがありますか?」

「そりゃまあ、子供の頃はね。でも、途中で親がサンタであることも知ったけど」

「ならば、サンタさんの正体を知る前までは、あなたの親もそれを隠していたことになりますよね」

「そうなるわよね」

「では、お母様は隠し事をしていた親を信じられなくなりましたか?」

 千瀬の静かな問いに、明美ちゃんの母親は顔を言葉に詰まる。

「答えてもらえますか?」

「……別にそんなことはなかったわね。親からすれば夢を壊さないように秘密にしていたんだろうし」

「ならば明美ちゃんだって、それと同じ事です。たしかにいけない秘密事もあるでしょう。でも、秘密にすること全てが悪いことばかり
でもありません」

 そこまで言ってから、千瀬は深々と頭を下げる。

「生意気言ってすみません。ですが、信じて欲しいんです。明美ちゃんのやろうとしたことを」

「…………事情はすぐ明らかになるのよね?」

「はい。きっとそうなるはずです」

「わかった。そこまで言うのなら、あの子を信じるわ。でも、最後に一つだけ質問していいかしら?」

「……はい? 何でしょうか」

「今回、私が朱美を信用してやれなかったのは、いけないことだったのかしら」

 その問いに対し、千瀬は少し考えてから次のように言いました。

「こう言うと、また生意気に聞こえるかもしれませんが、お母さまは明美ちゃんに対する心配が先走りすぎただけで、心の奥では
ちゃんと信用されていたかと思いますよ」

「……そう」

「心配するのは親の務めだと思います。でも、それによってすれ違いが起きるんじゃないかなって思うのなら……時には、優しく
黙って見守ってあげてください」

 千瀬は優しく微笑む。

 優しく黙って見守る事。それは相手の気持ちを尊重し、でも過ちがあれば正してあげられる状態。

 決して無責任に放置するわけではない。千瀬はそのことを伝えました。

「……そうね。ありがとう。とても大事なことね」

 明美ちゃんの母親は小さく何度も頷きました。

 こうして千瀬は家の中に入れてもらい、明美ちゃんにも会うことができました。

「はい。明美サンタさん、ご注文の品です。大事な人にプレゼントしてあげてね。食べ物のプレゼントだけに、今すぐに渡さないとい
けませんよ」

 パリブレストの入った箱を、ゆっくりと朱美ちゃんに手渡すと、彼女はとても嬉しそうに。

「ありがとう!!」

 満面の笑顔でお礼を述べてくれた。

 耳に響く“ありがとう”の声。

 簡単な言葉だけど、だからこそ判り易い感謝の気持ち。

 朱美ちゃんはわたしたちに言われた通り、すぐにプレゼントを親の元に持って走る。

 昨日から続いていた頑なさは消え、純粋にサンタさんになれる喜びで一杯なのだろう。それは子供らしい、とても素直な気持ち。

 あとはあえて見届ける必要はありませんでした。

 きっとあの家族は、笑顔になれたと信じているから。

 ……美味しい食べ物は、人を笑顔にしてくれる。

 だって、千瀬が作ったものは……きっとそういうものでしょうから。
 
 


 明美ちゃんの家から帰った後、千瀬はお店の営業を始めます。

 いつものように見知りのお客さまや、知らないお客さまが訪れて、時間は流れて行く。

 そして、外も暗くなった頃。また新しいお客さまがやってきた。

 お客さまは三人。

 小さな可愛いサンタさんを連れきた、大きなサンタさんが二人。
 
“ご注文は何にしますか?”

 千瀬は笑顔で三人を迎えたのでした。
 
 

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